和平調停人。                                アハティサーリ元フィンランド大統領のレクチャー。

 

2011/11/24

Text by Ryo

2008年にノーベル平和賞を受賞したアハティサーリ氏
2008年にノーベル平和賞を受賞したアハティサーリ氏

 

「決意があれば、紛争は終わる。平和とは、意志の問題である。」

アハティサーリ元フィンランド大統領は、繰り返し言った。

 

「和平調停とは何か―アハティサーリ氏の経験から学ぶ」と題したレクチャーが本日、都内で行われた。アハティサーリ氏は、1965年に外務省入省後、国連ナミビア事務総長特別代表としてとし、ナミビアの和平に従事。その後、1994年から2000年までの6年間、フィンランドの大統領を務める。大統領退任後は、非政府組織「Crisis Management Initiative」を設立。そのほか、インドネシア・アチェの和平調停役、アフリカの角の国連大使、欧州安全保障・協力機構中央アジア特使、セルビア・コソボ自治州の将来の地位をめぐる交渉調停などで活躍。世界各地の紛争解決に尽力した功績から、2008年にノーベル平和賞を受賞。今回のレクチャーは、和平調停を数多く経験したアハティサーリ氏に自身の体験をシェアして頂き、和平調停について学んでいくというものだった。

国際会議でよく目にする同時通訳レシーバー
国際会議でよく目にする同時通訳レシーバー

 

 「和平調停人(Peace Mediator)の役割は、船のキャプテンであり、海賊であり、コンサルタントであり、助産婦であり、医師の様だ」とアハティサーリ氏は言う。和平調停を結ぶプロセスに、絶対の答えは無い。それぞれの和平調停はユニークであり、国際情勢が複雑化を増す中、和平調停もより困難になってきている。そして、和平調停が合意に達するまでは、非政府組織から国際社会まで幅広いプレイヤーの相互協力が不可欠である。しかし、和平調停とは、紛争の当事者同士が話し合う絶好の場であり、その話し合いを円滑に進めて行くのが和平調停人の役目だという。和平調停のプロセスでの主役は交渉参加者たちだが、和平調停人は彼らに頼りきりで無く、特に交渉開始時は、「すべてを明らかにしていく」という姿勢が大切だという。徹底的に全てを明るみに出し、互いの意見を交換し、要求を出し合う。「和平調停時に両者が意見を出し合い、全てを明るみに出した上で合意に至らないと、紛争の再発を招かね無い。」とアハティサーリ氏は指摘する。事実、紛争地の約5割で5年以内に再び紛争が起こっており(国際協力銀行開発金融研究所2007)、交渉参加者が納得する合意文書を作成することは重要である。和平調停は、その結果次第で何万人、時には何百万人の生死を分けるのである。和平調停人は様々な要求、意見、利害関係などにおいて合意点を見いだす手伝いをするのだが、その際に重要なのは、和平調停人の「中立性」だ。

 

 「私は必ずしも常に中立で居たとは言えない。」アハティサーリ氏は言う。「大切なことは、どちらか一方の味方にならないこと。」

 中立性を保ち、どちらか一方の味方にならない(もしくは、どちらか一方の味方だと“思われない”)ことは非常に困難なことだろう。実は、フィンランドの隣国ノルウェーは、これで痛い想いをしている。スリランカにおける和平交渉をノルウェーが行っていたのだが、「インド洋の石油利権に目が行っている」、「LTTE(反政府組織タミル・イーラム解放のトラ)の要求ばかりに固執し、公平さを失っている」などとオンライン紙アジア・トリビューンから避難された経験がある。結果的にスリランカの紛争は、交渉参加者同士で和平合意に達することなく、LTTEの指導者を殺害し政府軍が全土を制圧することで終焉した。(このストーリーの詳細は「ピースメーカー」馬場千奈津著岩波書店)

      会場のホテルオークラにて
      会場のホテルオークラにて

 

 アハティサーリ氏のこれまで世界中で果たしてきた役割は大きい。2008年に受賞されたノーベル平和賞がその功績を物語っているが、アハティサーリ氏はどのようにして和平調停人になったのだろうか。アハティサーリ氏は外務省出身の大統領経験者だが、以外にも元々は教育者を志していた。アハティサーリ氏はこの点について「教育者を目指す過程で学んだことは、様々な和平調停で活かされている」という。教員育成学校を卒業した後、学生団体AISECによりパキスタンに派遣される。「留学はしたかったがタイミングが無かった。しかし、パキスタンでの経験が国際感覚を養ってくれた」とアハティサーリ氏は言う。 アハティサーリ氏はパキスタンでの任務後、外務省に入省し、外交官になる。そこから国連ナミビア事務象徴特別代表として、ナミビアが独立するまでその任務に就いた。アハティサーリ氏の和平調停はここからはじまった。時折鋭い眼光と厳しい表情をするアハティサーリ氏は、筆者に威厳があり聡明な印象を与えた。

 

 アハティサーリ氏のレクチャーで最も印象的だったのは、「あらゆる紛争は解決できる。紛争を続けるためのあらゆる理由は受け入れない」と力強く語ったシーン。これまで数多くの和平調停へ参加してきた同氏が言うからこそ、非常に説得力がある。そこには、あらゆる紛争は正当化できないという、同氏の強い信念が窺えた。

 

 決意があれば、紛争は終わる。アハティサーリ氏のレクチャー後には、そう強く信じられた。しかし、私たちはただ傍観するべきではない。特に創大生は。最後に、アハティサーリ氏から学生へのアドバイスを紹介しよう。

 

 

 「学生には、留学や海外への旅を通し視野を広げ、国際感覚を養ってほしい。そして、たくさんの本を読み、自分の意見を”正当化”できるように、正しい知識を身に着けなさい。」